患者の生活実験室

白血病患者(寛解中)が能動的な患者として楽しく暮らしていくために試した諸々と、医療や身体に関する本の読書記録

【本】死を生きた人びと 訪問診療医と355人の患者(小堀鷗一郎)

 外科医として40年間勤務したのち、2005年から在宅医療に関わるようになった小堀鷗一郎医師の処女作。

サブタイトルの355人は、著者が訪問医として看取ってきた人々だ。在宅医療の過渡期に患者としてその最期を過ごしてきた人々。彼らひとりひとりへの回想が、著者にこの「無名のままこの世を去った人々への挽歌」を書かせた。「望ましい死」とは何かという大命題とともに。

それに向かうための患者の最後の拠り所、それを著者はculminationと呼び、それを共に求める努力をしてきた。若き日に宝塚歌劇団のファンだった患者のために昔のブロマイドを探したり、患者たちの俳句サークルを作ったり。

しかし残念ながら、社会全体としてはこれに追随する方向ではない。それを著者は、さまざまなデータや引用を使いながら示している。

「日本の在宅医療と在宅看取りは、私に目指す医療とは異なる方向に進んでいるのではないか。それは、オーダーメイド医療の対極にある、オートメーション医療である」

「死は敗北」とする医療側・介護側の思い込みや病院死の一般化により、「自宅で病人を看取る記憶が失われている」と著者は言う。人が亡くなるということが身近でなくなり、それゆえに自分や家族が近く死ぬということが受け入れられないというケースも少なくない。それによって、また病院や介護側の介入によって、命の最期を、患者自身が望み通りに遂げられなくなってしまうのだ。


「生かす医療」一辺倒になり、「死なせる医療」が進んでこなかった日本で「だれにもとどめることができない流れに流されてゆく患者」。そして、「その一人一人に心を寄せつつ最後の日々をともにすごす医師」。

 

患者とそのような関係の医師であること、それが小堀医師の「見果てぬ夢」だ。

 

死を生きた人びと――訪問診療医と355人の患者

死を生きた人びと――訪問診療医と355人の患者