患者の生活実験室

白血病患者(寛解中)が能動的な患者として楽しく暮らしていくために試した諸々と、医療や身体に関する本の読書記録

【本】ほの暗い永久から出でて(上橋菜穂子・津田篤太郎)

 

 

母親を看取った作家・上橋菜穂子氏が、その過程を見守った聖路加病院の津田篤太郎医師と交わした往復書簡。

津田医師は、西洋医学東洋医学の両刀使い。上橋氏も、作家と文化人類学者の二足のわらじ。2人でありながら4つの視点を持つこの対談が、面白くないわけはそもそもなかった。

語られたテーマのひとつに、「想定の箱」というのがあった。カンガルーが、道路で走ってきた車を避けられない理由などを示しながら、上橋氏は

「もしかすると、生き物はそれぞれ、『想定』の箱の中で暮らしているのではないか。自分と、自分を取り巻く世界が『こういうものである』という『想定の箱』の中で」

「その想定の外にあるものは、見えない。認識できない。ー そういうことが、あるのかもしれません」

それに対して津田医師は、不治のがんを例に挙げて応える。“科学的”な「想定の箱」だと、がんの原因は遺伝子の損傷。手術はできない状態。予後は六か月。

しかし、“非科学的”な「想定の箱」だとどうなるか?例えば入院を余儀なくされることで家族や友人との時間が増えた。「真の人生の目的」を思い出し、少しでも達成できるように努めたい。

「このように『想定の箱』を変えると、見える風景が全く違います。見えないものは存在しないのではなく、単に見えていないだけであるかもしれない、と私はいつも思うのです」

昆虫から音楽まで幅広く扱う、お二人の幅広い教養と経験。しかしきちんと相手を慮りながら「対話」として成立させているところに、お二人の手腕を見、感服した。