患者の生活実験室

白血病患者(寛解中)が能動的な患者として楽しく暮らしていくために試した諸々と、医療や身体に関する本の読書記録

【本】森の人々(ハニヤ・ヤナギハラ)

 

森の人々

森の人々

 

 

「セレネ症候群」。免疫学者ペリーナに、栄光と破滅をもたらした疾患。

1995年。有名科学者ペリーナは、性的虐待の容疑で逮捕される。そこで友人に勧められ、刑務所で自伝を書くこととなる。

1950年、若き免疫学者であったペリーナは、人類学者のタレントに連れられ、南洋のイヴ・イヴ島へ調査に向かう。現地の成人儀式などに参列したあと、その森奥深くで出会ったのは、ある驚くべき症状をもった老人達だった。「夢人」と呼ばれる彼らは、知能は衰えているが、肉体的にはいつまでも若さを保つ、不死のような状態。その疾患の原因は、その島に棲息する、希少種のカメを捕食することであった。

ペリーナは、この老人達とカメをアメリカに連れて帰る。そして、「セレネ症候群」と名付け、研究を始める。この研究は彼を有名にし、やがて彼にノーベル賞をもたらす。

その後もペリーナは幾度となくイヴ・イヴ島へ渡航するが、ある時から、現地の子どもをアメリカに連れて帰り、養子にするようになるー

一気に読ませるが、ラストは衝撃的。こんなに後味の悪い小説は久しぶりだ。実在の人物をモデルとしているからだろうか。小説といっても、文中の研究者や製薬会社、宣教師達の傲岸さは、20世紀に現実として起こっていたことそのものなのだ。今なお続いているといえるかもしれない。

「もはやイヴ・イヴ島は、驚異をすべてはぎ取られ、草花やキノコ、動物や植物を根こそぎ奪われ、もはや美しい形と謎を残すのみとなった」

そのきっかけを作ってしまったペリーナ。図らずも、と本人は言うかもしれない。他人事のように。しかし彼は無意識に何かを求めていたのだ。島の破壊と43人の養子、そして自分自身の破滅をもってなお埋まらない、何かを。

わたしはこの本を読みながら、オリヴァー・サックスの『色のない島へ』を思い返していた。似て非なるこの2冊。いつか、ちゃんと読み比べをしてみたい。